◆栽培のこだわり

◇風味と栄養価に優れる野菜づくり

現代の野菜は、昔に比べて味も栄養価も低下したと言われていますが、その原因は何でしょうか?

 色々な要因が絡み、単純には挙げられないと思いますが、その根底にはきっと、消費者の受益よりも作業効率や採算を優先した商業重視の考え方があると思います。具体的には、風味や栄養価といった内的な質よりも栽培性(栽培の容易さ、豊産・早生性など)や販売品質(形・見栄え・揃いの良さ、流通耐性(硬さ)など)といった外的な質を重視する考え方が根底にあり、そのような考え方が、一代限りのF1雑種の普及や、肥料や農薬の多用を促し、結果、内的な質を二の次にした作物を生み出している考えています。
 食品は私たちの心身の基本であり、当園ではこれを問題視しています。もちろん、外的な質(栽培性や販売品質)も大事であることは言うまでもありませんが、これらよりも作物の内的な質を重視し向上することこそが、本質的な意味で消費者の受益につながる考えています。

 

◇自然の循環を活かした自然農法

では、作物の内的な質を高める、即ち作物本来の特性を引き出すには、どのようにすれば良いのでしょうか? 

 自然の野山では、多種多様な植物が、その根にさらに多様で天文学的な数の微生物を共生し、栄養素のギブアンドテイクをしています。そして植物同士は、地上では光をめぐって競合する一方で、地下ではその微生物が育む栄養素を共有しています。また、野山を住処とする大小様々な生き物は、植物を起点とする食物連鎖を形成しつつ、自身を含めてやがて全てを土に還し、再び植物の一部に戻っていきます。
 このような作用を大きく俯瞰すると、野山は、無数の生命体が織り成す大きな循環の輪を形成することによって、日光と大地のエネルギーを絶えず蓄積しつつ豊かさを延々と増していく、一つの生命体のようにも見えます。
 作物の内的な質を高めるには、きっとこのように多様な生命体が拮抗しバランスした自然の野山に近いような生育環境が再現され、栄養素の循環等、まだ人知の及んでいない自然の真理も含めて、自然本来の仕組みが最大限に発揮されるようにすることが大事だと考えています。別の言い方をするなら、自然の循環バランスをなるべく保ったまま、そのバランスをほんの少しだけ人にとって有利になるようにずらした栽培を行うことで、その恩恵を受けるという感じでしょうか。

◇具体的には次のような栽培をしています。

○無農薬 ⇒ 自然循環の仕組みを壊さない。
 害を及ぼす虫を農薬により駆除することは、その一方で畑に益をもたらす生き物や微生物をも駆除することになり、自然の循環の輪を著しく壊してしまいます。そのため農薬は使用しません。それでは病虫害が酷いのではないかと思われがちですが、真にバランスのとれた栽培環境および種子ならば、防除は特に必要なくなります。逆に言うと、現代の一般的な農法では、土壌のバランスを著しく損ない、作物が健全に生育できないため、農薬を使用せざる得なくなっているということです。
 
○無肥料 ⇒ 作物のバランスよい生育を促す
 上述のように、長年慣行農法で使用された畑は土壌のバランスが大きく崩れ、例えば有機物や微量元素が不足していることで、それを必要とする微生物や生き物などの食物連鎖が形成されにくくなっています。しかし、無肥料栽培を成立させるために最も重要なことは、そのような無数の生物たちが重厚に繋がることに他なりません。なので、新規の畑では、初期に限り、地力や微生物の早期回復を意図して糠などを施用することにしていますが、当園で年月を経た畑では、作物の生育に直接的に作用させる一般的な意味での施肥は、次のような問題を大なり小なり引き起こすと考えるため行いません。
・根の伸長に比べて草姿が大型化し、アンバランスに生育する。そのため、食味、栄養価、耐病虫害性の低下などを招く。

・その土壌本来の地力(バランス)を乱して生育させるため、土壌の微量元素の過剰な消耗や余剰肥料成分の蓄積を促し、その結果、土壌の成分バランスを大きく崩し、連作障害等、不健全な生育の原因となっていく。

・耕起を伴うことにより、結果的に次第に土を痩せさせる(次項記述)。

○不耕起(耕うんしない)  ⇒ 土壌環境を熟成し、自然の循環を活性化
 本来土壌中では、その局所の状態(成分、通気性、含水性、深度など)に応じ、様々な微生物や生き物たちがコロニー的に生育し活動域の拡大をはかっています。団粒肥沃化した、いわゆる良い土は、そのような生物たちが複雑に絡み合いながら盛んに活動し、その結果作られるものです。しかし耕起は、そのような生物の営みを破壊しリセットしてしまいます。また空気に過剰に曝すことになり、生物の長年の営みの結果である有機合成物を酸化揮発させて土を痩せさせてしまいます。また、有機物合成物の減少は、耕起の意図とは裏腹に、年々固くしまった土に変わっていくことも意味しています。さらにまた、トラクターなど重量のある機械で耕起する場合には、耕運爪の届かない深部では逆に、その重量で踏み固めることになり、硬盤層を形成してしまいます。これは排水性や根域の低下を招き、もちろん好ましくありません。

 一方、耕起しない場合は、上記のようなデメリットを生じさせることなく土壌を熟成することができます。それに加え、作物の根が腐植後に形成する根穴構造も生かすことができるため、保水性、排水性、通気性など良い土壌の必須資質を向上できるメリットがあります。

○雑草草生栽培(できる限り除草しない)  ⇒ 雑草の力を生かす
 施肥栽培においては、雑草は肥料分のロスにつながるため、除草剤やビニルマルチなどの使用によって徹底的に排除されます。しかし、無肥料栽培では、そのようなロスはそもそも存在しません。それどころか、次のようにメリットが大きいため、日光を遮らないかぎりなるべく除草しないようにしています。

・地上部地下部を含めて多様な生命体を育む素地となり、その結果、様々な病害虫に対する抵抗性を向上できる。

・地表面を草でマルチできることによって、表土の流亡及び乾燥を防止できる。

・畑に降り注ぐ日光のエネルギーを雑草自身に無駄なく蓄積でき、いずれ腐植として土壌の表土形成(肥沃化)につなげられる。

 

○多様な作物との混植栽培 ⇒ 相乗効果により生育と風味を向上する
 植物は、地上では光をめぐって競合する一方で、地下では微生物や栄養素を共有し、持ちつ持たれつの関係にあります。そのため、植物(作物)は、生育向上など互いに良い影響を与えるコンパニオンプランツとして、色々な種類が一緒に育つことが大事だと考えられます。例えばマメ科植物は、根に共生する根粒菌により空中窒素を固定する能力が高いと言われています。なので、特に窒素分の乏しい土壌環境においては、その固定窒素によって、共に育つ作物の生育や旨みをアシストすることを期待しています。またイネ科植物は、同様の効果に加えて、土壌バランス全般の改善性や光合成効率も高いと言われています。なので、これらには、土壌改善による病虫害の低減や有機物量の早期の増加も期待しています。
 
○なるべく無整枝栽培 ⇒ 本来の草勢を発揮させる  
 一般的な栽培では、あらゆる教本で述べられるように、管理・収穫の簡単化や果実の大型化・揃いの向上、肥効調整等を意図し、整枝管理されます。しかし本来は、枝葉の伸長と根の伸長は車の両輪のようにセットになっているものであって、いずれが欠けても生育に与える影響は小さくありません。特に無肥料栽培においては影響が大きく、地上部(枝葉)と地下部(根)がバランスよく伸長することが非常に重要と考えています。なので、無整枝による諸々の不都合は許容し、草勢を低下させずに本来の活力を発揮させることに重点を置いています。

○なるべく連作 ⇒ 作物と土壌の相性を高める

 一般的には、連作障害には大きな注意が払われ、作付場所を毎年変えたり、土壌消毒を徹底する等の対応がなされています。原因は様々に挙げられていますが、個人的には、畑一面の単作や農薬の使用による多様性の低下や、施肥や耕うんによる土壌成分の悪化が、連作障害と言われる生育不良の本質だと考えています。要は、食物連鎖が成立しないような劣悪な環境では、作物は弱くならざる得ないし、病虫害も簡単に優占できるということです。
 一方当園は、不耕起、草生、混植及び無肥料栽培であり、上記には該当しません。なので逆に、意図的に連作を行うことによって、作物(植物)自身が自ら好ましく土壌を変えていく、作っていくという本来の特性をメリットとして発揮させ、作物と土壌を最高にマッチさせたいと考えています。

○固定種の自家採種 ⇒ 栽培風土への順応度を高める
 植物は、一旦根付くと移動することができないため、上記のような与えられた土壌環境を自身で好ましく調えていくという特性と共に、その環境(風土)に合わせて自身をも急速に変えていく(順応する)能力を備えています(地球上各地に多種多様な植物(野菜)が生育するのは、そのような能力の長年の賜物ですね)。一方、市場を席巻するF1雑種は、雑種強勢の機構を利用して目先の当該世代だけが好ましい特質を持つことに主眼があり、次世代にはその特質やその世代の経験が受け継がれないことになっています。これは進化の仕組みにも反しており、容認してはいけないと考えています。なので当園では、固定種(好ましくは在来種)を自家採種して繰り返し栽培し、その特質と経験を次世代に繋いでいくことによって、作物が当地風土に最適に順応し、そして、見栄え、質、風味等全てにおいて最良になっていくよう留意しています。

○季節(旬)の露地栽培 ⇒ 旬の風味・質の野菜づくり

 旬のものが風味・質ともに優れることは、昔からごく当たり前に言われることです。きっとまだ人知が及んでいない旬の様々な因子にも作物が最適に順応してきた結果なのでしょう。なので、旬に沿った栽培を行うことで、そのような因子への順応性も含めて、作物本来の特性を十分に発揮させたいと考えています。